セミナー動画&レポート 第87回 名大カフェ "Science, and Me" 「1ミリの虫に問う 仕組まれた老化と死のシナリオ」
2022年6月23日に開催しました 名古屋大学との共催イベント
名大カフェ〝Science, and Me"のセミナー動画&レポートをお届けします!
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【今回の講師紹介】
野間 健太郎 氏
名古屋大学大学院 理学研究科 准教授
1982年香川県生まれ。京都大学大学院理学研究科 博士課程修了。博士(理学)。UCSD博士研究員、さきがけ研究員(兼)を経て、2017年より名古屋大学 特任助教、2021年より現職。空手四段。
【セミナーレポート】
▪️老化と死が訪れるのは仕方ないのか?
皆様は老化や死について、どう思われますか?
絵画でも、死はおどろおどろしく、怖いイメージ、悲しいイメージで描かれることがあります。セミナーに参加の皆様にアンケートを取ってみると、多くの方から死については“仕方ない”という回答をいただきました。老化は当たり前と思われるかもしれませんが、ベニクラゲという生物は環境次第で老化をしないと言われています。
では、人間はなぜ老化をするのでしょうか?
老化や死は酸化ストレスや、DNAのダメージなど、悪いものが蓄積されることで起こると考えられています。その中で、野間先生は本当にそれだけだろうか、と疑問を投げかけられています。生き物の寿命は種によって様々であり、トンボが数ヶ月の寿命、ゾウガメは約180年生きるといった違いがあります。
上記の違いから、悪いものが蓄積されるだけで老化を説明することはできないと考え、野間先生は種には固有の設計図(ゲノム)があり、実は老化は仕方のないことではなく、あらかじめ設計図(ゲノム)に老化をしなさい、と書かれているのではないか、と考えられました。ただ、設計図(ゲノム)を壊したら老化が起こらないのかを研究するには、寿命が長い種ほど研究が難しくなります。
そこで、野間先生は寿命が2週間〜3週間である線虫を活用されています。線虫は体長が1mmであるので一つの箇所で多くを飼うことができ、設計図(ゲノム)の書き換えが容易であるため、老化の研究に最適だとされています。
実際、設計図の一部を破壊した線虫は寿命が平均の2倍になる実験結果が出ています。設計図(ゲノム)は種ごとに異なりますが、共通する部分もあり、インスリン受容体という昆虫や爬虫類にもある設計図を破壊すると、同じように寿命が伸びる結果が出ています。このことから、寿命は設計図(ゲノム)によって仕組まれているかもしれない、と考えられるのです。
▪️脳機能の老化
先ほどは老化と死に関して、設計図(ゲノム)の話をいただきましたが、種によっては、老化の兆候を示さずに、急に死に至る種もあり、寿命と老化は必ずしも1対1ではない可能性もあります。そこで、脳機能の老化に着目をして、研究が進められていますが、その仕組みに関してなかなか研究が進んでいないのが事実です。
アルツハイマー病、パーキンソン病など脳機能に影響がある病気がありますが、実際に病気にかからなくても老化をしている事実もあり、野間先生としては、老化の原因が脳機能に紐づいている訳ではないと考えられています。
線虫は神経細胞が302個であり、それらを使った行動の一つに、餌の匂いに引き寄せられる習性があります。これがたった4日間で機能しなくなってしまいます。人間も老化と共に神経機能が弱まることが分かっており、設計図(ゲノム)の中で神経の老化を促す部分を破壊することで、神経機能の老化が起こらないようになり、老化の軽減につながるのでは、という期待があります。この研究が進むことで、将来は老化をコントロールできる未来が来るかもしれませんね。
--セミナー中のご質問に一部、答えます。--
▪️老化と成長の違いってなんでしょう?
人それぞれ定義があるかもしれませんが、生殖が出来るまでが成長であり、生殖が衰えることが老化であると定義して、研究を進めています。
その他、Q&Aに関してはぜひ動画でご覧ください。
「名大カフェ〝Science, and Me"」とは?
名大期待の若手研究者をゲストに、「研究」というフィールドから見える世界や感動、異分野とのコラボレーションへの期待などをMCとのトーク形式で語ります。
名古屋大学×松坂屋名古屋 包括連携
松坂屋名古屋店は名古屋大学と2017年から包括連携協定を結び、「百貨店を通して豊かな文化を地域に還元する」取組を続けています